◇小型電蓄の修理◇

キットのキャビネットとはいえなかなかのスタイルです。


 電蓄キットの修理依頼がありました。当時はこういうケースキットが売られていたので、ピックアップやフォノモーターを別途仕入れてアマチュアが組み立てたものでしょう。たぶん・・・
 小型といってもこれは、大型ST管ラジオよりひとまわり大きくて取り回しも大変でした。基本は普通の5球スーパーのPU端子にプレーヤーを接続するというものです。一般家庭向きで、レコードを聴くならお手頃な大きさというべきでしょうか。
 電蓄といえば更に大型の電蓄があります。これは、小型の冷蔵庫くらいの大きさでアンプ部もプッシュプルになり出力も10Wクラスになります。
 当時マニアが絶賛したのは2A3ppアンプを搭載したものと聞いています。そして、高級電蓄ともなると高周波増幅の付いたラジオになり、真空管は8〜10本くらい使われていたものだと思います。


小型といえども一般家庭では十分な性能です。


78回転専用のプレーヤーで、レコード針は鉄です。


 フェルト貼りのターンテーブルはなんともレトロなものです。ちょっと日焼けしていましたが、まだまだ十分使用可能かと思います。
 パッと見たところ入れ物は、案外綺麗で天板(蓋)のキズが酷いだけかな?と・・・よくよく調べると側面後部は両方とも化粧板が剥がれて欠損しているし、あちらこちらと擦り傷があり、下地まで出ているところもありました。
 欠損部は、化粧単板で接木補修、天板はある程度キズを消して再塗装です。その他はいつものとおりで研磨、色合わせなどして塗装しました。正面のダイアルやつまみの付いているパネルは汚れていただけだったので、ここは磨いただけです。ただしSPの飾り格子は取り外して塗装しました。


◇プレーヤー部(整備前)◇


入れ物は案外程度が良いと思ったのですが・・・
細かくチェックするとやはりあちらこちらに・・


 現物が届いたときに蓋を開けたらアームが固定されていなかったので、ピックアップがあちらこちらと移動していたようです。せめてここはヒモなどで縛って送って欲しいものです。幸いなことにマグネチックタイプで断線もなく修理が出来ました。クリスタルタイプだと経年変化もありますがお釈迦になっていたのではないかと思います。
 眺めてみるとピックアップのアームはなんともレトロな形をしています。使っていたわけでもないのですが、なんか懐かしいような気がします。針圧は相当あり、今時のプレーヤでは考えられないほどレコードに圧力がかかります。
 このピックアップは、断線はなかったものの振動板を固定する部分が硬化して使いものになりませんでした。柔らかいゴムみたいなもので、なにか代用品が無いかと湿布薬の柔らかい部分を切り取って使ってみました。しかし、これは1ヶ月程で硬化してボロボロになるんだとか?
 それではあまりにもよろしくないので、困っていたところOMさんがとても柔らかい、何かのシール材を探し出し、手配してくれました。感謝申し上げます。このシリコンゴムみたいな柔らかいものは10年くらいは持つのではないかということです。


マグネチックタイプのピックアップ


今でいうMCカートリッジか??


 さてさて、問題の中身は?あら〜!ひえ〜!どうも気に入らない感じ〜。このまま修理しようかどうしよう・・・。と迷ったあげく依頼された方にメールを入れることにしました。というのも余分な穴が沢山開けられとても酷い状態です。
 結局、中身はシャーシから作り上げることになりました。真空管は1本だけGT管でしたのでこれはST管の6WC5とスタイルを整えることにしました。付いていたソケットはSPソケットとして再利用することに・・・。
 IFTはスターのC同調463KHz、なんか嫌な予感です。というのも何度かC同調のIFTで発振に悩まされた記憶があります。このタイプはどうも嫌いです。なんとなくですが・・・


◇整備前のシャシ上と裏◇


別の意味で凄い迫力!これどうしよう??


 付いていたVCは「スター」と打ち込まれた450Pと思われるもの、実際はトリマー全開で460Pと470Pくらいありました。この「スター」は「STAR」とは違うようです。昔は同名の会社が実在していたようです。ややこしい時代があったんですね。
 とりあえずシャーシをほぼ同寸で作り上げ、縦長風に5スパを作りました。レトロ+今風?でしょうか、AF部以降は、一応オーディオアンプということで今風の部品で仕上げました。少しは音が良くなるかと思いましたが変化なし。部品が少し小さくなっただけです。偏見ですが、ST管には大きな部品が何故か似合います。


◇作り直したラジオ・アンプ部◇


シャーシもほぼ同寸法で作り直しました。


 あまりにも気に入らないので、ラジオ・アンプ部は新規に作り直しました。奥行きの長いスタイルです。
 箱に余裕があるので横長でも良いのですが、よく見るとフォノモーターがすぐ天井にあります。モーターが下側に相当飛び出すので、シャシの取り出しが不便になります。
 欲をいえば、ラジオ部とアンプ部を別々にして左右に取り付ければ良かったのかもしれません。


◇付いていたフォノモーター◇


色といい形がSL模型の1部みたい


 フォノモーターは軸受けのグリスが固くなって回りませんでした。分解掃除をして軸受けにグリスアップそして軸受けの調整で回転するようになりました。
 このモーターは、スピード調整も出来るようになっています。これは円盤式のブレーキではなく遠心力で調整するようなタイプらしいです。円盤式だとシャカシャカ擦れて音がしたような?ということは高級品なのかな・・・・??
 レコードといえば回転ムラが重要視されます。といってもやはり時代相応でストロボで見ても線が全然落ち着きません。これはどうしようもありません。


◇ケースに入れました◇


プレーヤー部が、まだないので上からセット面が見えます。


 箱が大きいせいでST管のシャーシを入れてもガラガラです。中央にモーターが来るので仕方のないことです。
 ツマミは3個セットされていました。4個あれば音質調整を付けられたのですが無いので仕方なく省くことにしました。来たときは音量調節がプレーヤー部に1つと本体に1つのタイプでした。これでは電蓄らしくないので1つのVRで可変出来るようにしました。
 ツマミは電源/音量、選局、ラジオ/プレーヤーの切替としました。この切替は4回路3接点のものを4回路2接点に改造して使いました。その他の外部入力にでも使えばよかったのかな?
最初から付いていたSPは20cmで何故か斜めに取り付けられていました。取り付け面を見ると16cm用くらいです。どうやら大きくて斜めに浮かせて取り付けたようです。 これでは調子が悪いし、エッジも破れていたので手持ち品を使うことにしました。
 電源トランスも手巻きのようでコアがデコボコしています。絶縁度は良いみたいですが、ばかでかく磁気漏れもあると思います。今回はちょっと贅沢な銅板シールド付きの平ラグ型を使いました。


◇SP盤でモニター◇


昭和のレコードサウンドを・・・


 SP盤は重たくて片面に1曲しかありません。とりあえず手持ちの中からちょっと知ってる曲を1枚!「有楽町で逢いましょう」などを・・・。
 ターンテーブルのスィッチをON。軽く唸りをあげてターンテーブルがグルグルと高速で回ります。そこへピックアップをそっと降ろします。
 独特のスクラッチノイズがしてレコード演奏が聞こえてきます。このシャリシャリ音がなんとも昭和の情緒を醸し出しています。戦後の音?良く判りませんがなんかいい感じ・・・。低音もしっかり出ます。


◇シャシの裏◇


電源トランスは平ラグタイプとちょっと贅沢


 結局ちょっとコストはかかりましたが、それなりにレトロ風に仕上がりました。見た目はまずまずかな??などと・・・
 さて、出来た出来たと組み立て後ラジオを聞いたところローカル局しか聞こえず、おかしいな?としばし腕組みです。う〜ん、ANTコイルが悪いのかなと取り外してQを測定してみます。測ってみれば、おおよそ120くらいあるし、これといっておかしくはないので、またまた腕組・・・
 変だな〜と、よくよく見ると検波管のカソードに付けた抵抗は10KΩと高い数値のものを付けていました。分別したとき1KΩの箱にたまたま混ざり込んでしまった様です。あはは・・・。


◇コイルの測定◇


使用されていたのはスターのハイ・インピーダンスタイプ


 一通りの作業が終了しました。ここで気になったのが、レコード針の寿命です。調べてみたところ鉄針は1枚聞くごとに交換するのだとか?えっ!と思いましたが、これが常識で今の針の感覚とは全く異なるようです。他にちょっと長持ちする竹針があるようです。竹針はレコード盤を大切にする方が好んで愛用したとか?勿論、音色も変わることでしょう。
 レコードを聞いてみたところこんな小型でも迫力は満点です。昔の音とはいえ、当時、電蓄マニアがいたというのもうなずけます。


<2006.11.15>


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